これはなんだ!?
もしかすると、これが肩こりっていうやつなんだろうか?
あれはそう。今朝方早く、運転をしていた時のこと。
いつものように降ろすべくところで人を降ろし終えると、帰り道に入った車内は静かな時間に包まれていた。
眠気覚ましのカーラジオからは、「昨日の小春日和はどこへ消えたか?」というような話がのんびりと流れている。
この冷え込みは日中もつづいていき、どうやら明日は東京でも、この冬、初の雪になるらしい。
帰ったら豚汁が飲みたい。
仕入れは自転車でアマイケか。
降るなよ、まだ降るんじゃないぞ。
日頃の機動力の大半を自転車でまかなう我が身にとって、降雪はハードルが高い。
颯爽(さっそう)と買い物までも済ませてしまうであろう、帰宅後のベストな流れと、おいでおいでと柔らかに手招きしてるに違いない、布団のぬくもり。
両者を天秤にかけつつ、実はどちらでもオーケーだと思っているこの瞬間は、心地のいい夜勤明けの醍醐味にもなっている。
ついてるついてる、今日もついてる。
これから訪れる何をしていてもいい時間に、思いを馳せると頬がゆるみ、もう少し暖房のダイヤルをひねろうと右手を伸ばしてつまみを探る。
と、この時だ。
ふと、なにか肩の辺りにある、むず痒さのようなものに気づいたのだ。
右腕の付け根あたりから胸にかけての、3、4センチくらいのところに「ぼわーん」とはびこる、なんだろう?
この謎のもぞもぞ感は。
血のめぐりが滞っているような、内側が筋ばっているような。
鈍く厚ぼったい重みなのだが、筋肉痛とは違うよう。
とりあえず座席の奥へと尻をずらしコートを整え直してみたものの、なんとも表現のしづらい、不思議なこの感覚が消える気配はない。
片手でシートベルトを引っ張って、問題の付近に隙間をつくってみたのだがこれも意味がないようだ。
気のせいか。気にしなければ忘れるか?
ラジオが9時の時報を告げている。
そうだ、これで静まるかも。
「ファンキイイいいいいいいい フラアアああああイ デエエえええええーーーーー」
10秒か。いや、20秒。まだいけるな30秒。
御年77歳。「ミスター音楽(自称)」の小林克也ディスクジョッキーと一緒に、伸びきれるところまでタイトルコールを吠えてみた。
しかしこれも効き目はなく、ひと口、ふた口、コーヒーをすすって喉を潤してみてもむずむずもぞもぞ。
へんてこな違和感は心なしか更に増しているようだった。
「要は肩甲骨だな、けんこうこつ。きっと、この辺りの寄せが足んなくて… ただいまー」
行きつけの事業所に戻ると、事務室(いや、もはや「ジム室」でもいい)に入り、握ったバーベルでショルダープレスをした。
ついでにさっき、大ちゃんから教わったばかりのブランニュートレーニング、ウェイトリフティングの基本動作だという「クリーンアンドジャーク」の動作を真似てみる。
瞬発力を使って重りを持ち上げるため、一発で全身を鍛えられるところから、この動きに付いたあだ名は、ビッグスリー(スクワット・ベンチプレス・デッドリフト)を超えたビッグワン。
これは効いたかもしれない。
エッホ、エッホと繰り返すうちに体が温まったのでベランダに出た。
チャーハンを食べたら家に帰ろう。
自転車きこきこ20分。自宅に着いてコートを脱いだ。
買い出しは後だ。やっぱり眠い。
マフラーを取ってあっけなく布団にもぐり込んだ。
どのくらい眠っただろう。
すこし水を飲んでからトイレに寄ると、鏡に映った自分につっと目があった。
あれか。これは縫い目だな…。いわゆるひとつのステッチだ。
黒く四角い点々が、首元にうっすらと浮かんでいた。
「謎」が解けると、再び眠くなってきた。
どうやら昨日から気づかずに、ずっと白いとっくりセーターを後ろ前に着ていたのだ。
こういうものは靴下と一緒に脱いでしまおう。
よし。こっちは裏表になっていなかった。
豚汁は、また明日の楽しみに。
ただし服はちゃんと着替えて寝る
花が咲いたら…?じゃんけんポン!
脱いだら完治した。